「ワインといえばフランス」の時代、その常識を覆したのがカリフォルニア州ナパ・ヴァレーのワインでした。
ナパ・ヴァレーの「シャトー・モンテレーナ」は無名のワイナリーでしたが、1976年のパリ・テイスティングで見事勝利し、フランス以外の国にも一流のワインが作れることを証明してみせたのです。
本記事ではナパ・ヴァレーにワイナリーが誕生した歴史や代表的なワイナリー、おすすめのナパワインを紹介しています。

ナパ・ヴァレーとは
ナパ・ヴァレーとはアメリカ合衆国カリフォルニア州北部に位置する群で、カリフォルニアワインの代表的生産地です。
本章ではナパ・ヴァレーワインの歴史とナパワインの特徴について解説します。
ワイナリーの誕生

ナパ・ヴァレーのワイナリー誕生は19世紀の中頃に遡ります。
1839年、開拓者のジョージ・カルヴァート・ヨーント氏がワイン用ブドウの栽培地としての可能性をナパに見出し、最初のブドウを植えました。
その後1861年にチャールズ・クリュッグ氏がナパに初めての商業ワイナリーを創立したことをきっかけに次々とワイナリーが誕生。
ベリンジャーやシュラムスバーグ、イングルヌックが創業し、1889年には140以上のワイナリーがあったといわれています。
ナパ・ヴァレーワインの特徴
ナパ・ヴァレーのワインは一般的にリッチで華やかという評価を受けており、ワイン愛好家からも人気のある銘柄が数多く存在します。
ナパ・ヴァレーで栽培されているワイン用ブドウの半分以上をカベルネ・ソーヴィニヨンが占めており、そのワインは世界的にも高い評価を獲得しています。
他にもシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランなどさまざまな品種のブドウが栽培されています。
ちなみにナパ・ヴァレーのワインは略して「ナパワイン」と呼ばることもあります。

日本人によるナパヴァレーワイナリー
実はナパ・ヴァレーには、日本人が経営するワイナリーも存在します。
Freeman Vineyard & Winery はアキコ・フリーマンさん夫婦によるワイナリー。
2013年に作られたシャルドネ「涼風」は、2015年4月の安倍元首相を招いて行われたバラク・オバマ元大統領のホワイトハウス公式晩餐会でも提供されました。
KENZO ESTATE は辻本憲三さんがオーナーを務めるワイナリーで、日本にも直営のワインショップやレストランを構えています。
2019年には「ボンフォーツ・ワイン&スピリッツ・ジャーナル」の世界のトップ100ワイナリーのひとつに選ばれました。
ワイン史に残る歴史的大事件「パリスの審判」

ナパ・ヴァレーのワインは今でこそ世界的に有名ですが、業界ではしばらくの間「ワインといえばフランス」という常識があり、アメリカやオーストラリアのワインは格下扱いされていた時期が続いていました。
しかしナパヴァレーのワインはその常識を覆します。
1976年にパリでブラインド・テイスティング大会(銘柄を隠して味を評価する試飲会)が開催されました。
審査員はソムリエやワイン専門誌の編集者、3つ星レストランのオーナーシェフなどトップレベルのテイスター9人で、全員フランス人。
審査は9人がそれぞれのワインに点数を付け順位を決めるという方法で行われ、「ワイン王国」であるフランスのワインが優勝すると思われていました。
しかし採点結果は予想を裏切るものとなります。
白ワイン部門ではナパ・ヴァレーのシャトー・モンテレーナがフランスのムルソー・シャルム・ルーロを抑え1位に。
続く赤ワイン部門でもナパ・ヴァレーのスタッグス・リープ・ワイン・セラーズがシャトー・ムートン・ロスチャイルドに勝ち、アメリカワインがフランスワインを打ち倒す結果になったのです。
このエピソードをアメリカ「タイム」誌がギリシャ神話の挿話になぞらえ「Judgment of Paris(パリスの審判)」と題した記事を発表したことから、ワイン史に残る歴史的大事件として今も語り継がれています。
「パリスの審判」事件がその後のワイン業界に与えた影響は凄まじく、アメリカをはじめとした新世界ワインが大きく注目されるきっかけとなりました。
ナパ・ヴァレーの代表的ワイナリー
ナパ・ヴァレーにある400以上のワイナリーの中から代表的なワイナリーを一部紹介します。
- シャトー・モンテレーナ
- ベリンジャー
- イングルヌック
- オーパス・ワン
- スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ
- クロ・デュ・ヴァル
- シュラムスバーグ
シャトー・モンテレーナ
シャトー・モンテレーナは1882年に創業された由緒あるワイナリー。
1976年のパリ・テイスティングにおいて白ワイン部門で優勝し、カリフォルニアワインの質の高さを世界に知らしめました。
白ワインだけでなく赤ワインにも力を入れており、モンテレーナのカベルネ・ソーヴィニヨンは現在でも多くのファンを魅了しています。
無名だったシャトー・モンテレーナがテイスティング大会で優勝し一躍世界的なワイナリーとなる姿はドキュメンタリー映画「ボトル・ドリーム」で描かれています。
ベリンジャー
1876年、ドイツ系移民のベリンジャー兄弟によって創業。
ワイナリーとして初めて公開ツアーを行うなど、ワインツーリズムの先駆けでもあります。
1920年頃には禁酒法の危機にも遭いましたが、礼拝用ワインとして酒造許可を取得し教会に販売することで乗り切りました。
2001年には設立125年を迎え、ナパ・ヴァレー最古のワイナリーとなり2021年現在もワイナリーとして現役です。
イングルヌック
イングルヌックは1879年にグスタフ・ニーバムによって創業。
惜しみない設備投資のもと高品質なワインの製造に専念、パリ万博で銀賞を獲得するなど高い評価を得ていました。
その後も名声を得てはいたものの経営は上手くいっておらず、イングルヌックは分割され売却されてしまいました。
イングルヌックの復活に一役買ったのが映画監督のフランシス・フォード・コッポラ氏。
彼が約40年間にわたりイングルヌックの商標と土地を買い集めることで、伝説のワイナリーを現代に甦らせることに成功しました。
オーパス・ワン
オーパス・ワンは1978年、シャトー・ムートン・ロスチャイルド当主のフィリップ・ド・ロスチャイルド男爵と、カリフォルニアワイン界の重鎮、ロバート・モンダヴィ氏によって誕生したワイナリーです。
偉大な2人のコラボレーションによるワインは発売当初から話題を呼び、現在ではアメリカ産高級ワインの代表的ブランドとなりました。
スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ
1972年に設立されたスタッグス・リープは1976年のパリ・テイスティングの赤ワイン部門で1位を獲得、世界的に有名になりました。
2011年のオバマ元大統領がエリザベス女王とフィリップ王子を招いた晩餐会でサーブされるなど、アメリカワインの名門として君臨しています。
クロ・デュ・ヴァル
クロ・デュ・ヴァルはジョン・ゴレ氏とベルナール・ポーテ氏によって1972年に設立されました。
1976年のパリ・テイスティングのリターンマッチである1986年の試飲会でクロ・デュ・ヴァルのカベルネ・ソーヴィニヨンが赤ワイン部門で優勝したことで脚光を浴びました。
シュラムスバーグ
シュラムスバーグは1862年にジェイコブ・スラムス氏によって説立。
伝統的なシャンパーニュ方式による製造にこだわり、高品質なスパークリングワインを生み出してきました。
アメリカ大統領の公式晩餐会でも使用されるなど、アメリカを代表するスパークリングワイン生産者の地位を確立しています。
おすすめのナパ・ヴァレー ワイン
ナパ・ヴァレーワインの中から比較的お求めやすい価格帯のワインと、一度は飲みたいおすすめのワインを紹介します。
シャトー・モンテレーナ ナパ・ヴァレー シャルドネ

「パリスの審判」で見事1位を獲得し、カリフォルニアワインを世界的に有名にした1本。
豊かな果実味とフルーティな香りを楽しめる、一度は飲みたいワイン。
ナパ・ハイランズ ナパ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨン
2017年に明石家さんまの「さんまのほんまでっか!?TV」で紹介されたことをきっかけに日本で大ブレークした赤ワイン。
高級なカベルネ・ソーヴィニヨンの濃厚な味わいを5千円前後で楽しめることもあり、現在でも人気の1本です。
ベリンジャー ナパ・ヴァレーシャルドネ
ナパ・ヴァレー最古のワイナリー「ベリンジャー」によるシャルドネ。
トロピカルフルーツの香りが楽しめる、バランスの取れた1本です。
チェケッテイ レッドツリー ピノノワール
チェケッティのピノ・ノワールは、イチゴのような香りとほどよいタンニンが楽しめるワイン。
コストパフォーマンスの高いワインとして人気の銘柄です。
ブレッド&バター シャルドネ
2014年設立の新進気鋭のナパ・ヴァレーワイナリーによるシャルドネ。
その名の通り、焼きたてのパンとバターを思わせる香りが特徴の白ワインです。
シックス・エイト・ナイン ナパヴァレー レッド
シックス・エイト・ナイン・セラーズ(689)による赤ワイン。
輸出専用のためアメリカ国内では購入できないワインで、レストランやステーキハウスなどで人気を博しています。赤身肉に合わせたい1本。
世界のワインを楽しむきかっけに
本記事ではナパ・ヴァレーのワインについて解説しました。
ナパ・ヴァレーのワイナリー「シャトー・モンテレーナ」の勝利はアメリカだけでなく、オーストラリアやチリといった新世界ワインの躍進にもつながる一大事件でした。
ワインの歴史を知ると、ワインを飲むのがよりいっそう楽しくなります。
アメリカ屈指のワイン生産地「ナパ・ヴァレー」の世界を探求してみてはいかがでしょうか。
